飲み込む力が弱まると命に関わる!嚥下機能を鍛える簡単トレーニングと食事法

コラム

「最近、お茶を飲んだ時にむせることが増えたな…」「硬いものが少し飲み込みにくくなったかも…」と感じたことはありませんか?

実はそれ、お口の力が弱まっているサインかもしれません。
飲み込む力、すなわち「嚥下(えんげ)機能」は、私たちが食事を楽しみ、健康を維持するために不可欠な力です。
この力が衰えると、栄養不足や、命にも関わる「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」のリスクが高まります。

この記事では、歯科衛生士の視点から、ご自宅で簡単にできる嚥下機能のトレーニングと、安全に美味しく食べるための食事の工夫を、分かりやすくご紹介しますね。

【この記事の結論】飲み込む力(嚥下機能)を維持する3つの対策

  1. 自宅で簡単トレーニング
    「パタカラ体操」や「おでこ体操」など、食事の前後にできる簡単な運動で、飲み込みに必要な筋肉を鍛えましょう。
  2. 食事の工夫
    水分には「とろみ」をつけ、パサパサする食材は「あんかけ」にするなど、調理法を工夫することで、安全に食事ができるようになります。
  3. 専門的な口腔ケア
    誤嚥性肺炎の直接の原因は「口の中の細菌」です。歯科医院での定期的なクリーニングで細菌を減らすことが、命を守る最も効果的な予防法の一つです。

もしかして嚥下機能の低下?歯科衛生士が教える見逃したくない7つのサイン

飲み込む力の低下は、ご自身では気づきにくいことも多いものです。
「年のせいかな?」で見過ごさず、日々の小さな変化に気づくことが予防の第一歩です。
以下に挙げるサインに複数当てはまる場合は、注意が必要かもしれません。

見逃したくない7つのサインのイラスト

以前より食事に時間がかかるようになった

以前は15分で食べ終わっていた食事が、30分以上かかるようになった、ということはありませんか?
これは、食べ物を噛む力(咀嚼力)や、噛んだものをまとめて飲み込む力(嚥下機能)が低下しているサインかもしれません。
クリニックでも「家族の中で食べるのが一番最後になってしまう」というお悩みを聞くことがあります。

食事中によくむせる、咳き込む

特に、お茶や味噌汁のようなサラサラした液体でむせやすくなるのは、典型的な症状の一つです。
液体は固形物よりも喉を通過するスピードが速いため、飲み込むタイミングを合わせるのが難しくなります。
むせるのは、食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」を防ごうとする体の防御反応ですが、この反応が頻繁に起こる場合は注意が必要です。

のどに食べ物が残っている感じがする

食事をした後も、なんだかのどに食べ物が残っているような、スッキリしない感覚はありませんか?
これは、飲み込む力が弱まり、食べ物を一度で食道へ送り込めずに、のど(咽頭)に残ってしまうために起こります。

硬いものやパサパサしたものが食べにくい

せんべいやナッツのような硬いもの、パンやゆで卵、ひき肉のようなパサパサしたものが食べにくく感じ始めたら、それもサインの一つです。
これらは唾液と混ぜ合わせて食塊(しょっかい)という塊にしにくい食品のため、お口周りの筋力や唾液の分泌量が低下すると、うまく飲み込めなくなります。

声がかすれる、ガラガラ声になる

食事中や食後に、声がかすれたり、痰が絡んだようなガラガラ声になったりすることがありますか?
これは、飲み込みきれなかった食べ物や唾液が声帯の周りに付着しているために起こる症状で、「湿性嗄声(しっせいさせい)」と呼ばれます。
嚥下機能低下の重要なサインと考えられています。

体重が理由なく減少してきた

特別なダイエットをしているわけでもないのに、半年で2〜3kg体重が減った、という場合は注意が必要です。
飲み込みにくさから、無意識のうちに食事量が減っていたり、食べやすいものばかりを選んで栄養が偏っていたりする可能性があります。
食べることは、全身の健康を支える基本です。

口の中に食べかすが残りやすい

食後に口の中に食べかすが多く残るのも、舌や頬の筋力が低下しているサインです。
私たちは、舌や頬の筋肉を巧みに使って、食べかすをまとめ、飲み込んでいます。
この力が弱まると、歯と頬の間などに食べかすが残りやすくなり、虫歯や歯周病、口臭の原因にもなります。

なぜ飲み込む力が弱まるの?嚥下機能が低下する主な原因

嚥下機能は、様々な要因によって低下します。
原因を知ることで、ご自身に合った対策を見つけることができます。

嚥下機能低下の主な原因イラスト

一番の原因は「加齢」による筋力の低下

腕や足の筋肉が年齢とともに衰えるように、飲み込みに関わる舌やのどの筋肉も衰えていきます。
特に、最近では「オーラルフレイル」という概念が注目されています。
これは、お口の機能のささいな衰えが、全身の衰え(フレイル)につながるという考え方です。
滑舌が悪くなる、食べこぼしが増えるといった小さなサインを見逃さず、早めに対策を始めることが大切です。

参考: オーラルフレイルを知っていますか?

脳卒中やパーキンソン病などの「病気の後遺症」

脳卒中やパーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など、神経や筋肉に影響を及ぼす病気の後遺症として、嚥下障害が起こることがあります。
これらの病気は、飲み込みの指令を出す脳や、その指令を伝える神経の働きを妨げるため、食べ物をうまく飲み込めなくなります。

意外と多い「お薬の副作用」

普段飲んでいるお薬が、嚥下機能に影響を与えている可能性もあります。
例えば、風邪薬や抗うつ薬、頻尿の治療薬などの中には、副作用として唾液の分泌を抑えるものがあります。
唾液が減ると、食べ物がまとまりにくくなり、飲み込みにくさを感じることがあります。
お薬手帳を持って、かかりつけの医師や歯科医師、薬剤師に相談してみるのも良いでしょう。

若い人にも関係ある?「ストレートネック」と姿勢の問題

嚥下機能の低下は、高齢者だけの問題ではありません。
スマートフォンやパソコンの長時間利用で、首がまっすぐになってしまう「ストレートネック」の若い世代が増えています。
ストレートネックになると、首の前側の筋肉が硬く緊張し、飲み込みの際に重要なのど仏(喉頭)の動きが制限されてしまいます。 これにより、20代や30代でも飲み込みにくさや喉の違和感を感じることがあるのです。

自宅でできる!歯科衛生士おすすめ簡単嚥下トレーニング5選

飲み込む力も筋肉です。
毎日少しずつでもトレーニングを続けることで、機能の維持・向上が期待できます。
ここでは、ご自宅で簡単にできる5つのトレーニングをご紹介します。

1. 食前の準備運動に「嚥下準備体操」

食事の前に、首や肩、お口周りの筋肉をほぐすことで、誤嚥のリスクを減らすことができます。

  1. 深呼吸: まずはリラックス。鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口からゆっくり吐き出します(腹式呼吸)。
  2. 首の運動: ゆっくりと首を左右に回したり、横に倒したりして、首周りの筋肉を伸ばします。
  3. 肩の運動: 両肩をぐっと上げて、ストンと力を抜きます。これを数回繰り返します。
  4. 頬の運動: 口をすぼめたり、頬を大きく膨らませたりします。
  5. 舌の運動: 舌を「べー」っと前に出したり、左右の口角を舐めるように動かしたりします。

2. 唇と舌を鍛える「パタカラ体操」

「パ」「タ」「カ」「ラ」の4つの音は、それぞれ食べるための一連の動きを鍛えるのに効果的です。

  • 「パ」: 唇をしっかり閉じる動き。食べこぼしを防ぎます。
  • 「タ」: 舌を上あごにくっつける動き。食べ物を押しつぶす時に使います。
  • 「カ」: 喉の奥を閉じる動き。誤嚥を防ぎます。
  • 「ラ」: 舌を丸めて食べ物をまとめる動き。

「パ、パ、パ」「タ、タ、タ」「カ、カ、カ」「ラ、ラ、ラ」とそれぞれ5回ずつ、そして最後に「パタカラ、パタカラ」と5回、はっきりと大きな声で発音してみましょう。

3. 飲み込む力を直接強化!「嚥下おでこ体操」

飲み込みに直接関わる、のどの筋肉(喉頭挙上筋群)を鍛えるトレーニングです。

  1. 椅子に座り、姿勢を正します。
  2. 片方の手をおでこに当てます。
  3. おへそを覗き込むように、頭を下に向けます。この時、手でおでこを押し返し、抵抗を加えます。
  4. のど仏のあたりに力が入っているのを感じながら、5秒間キープします。
  5. これを5〜10回繰り返します。

食事の直前に行うと、飲み込みがスムーズになる効果が期待できます。

4. 呼吸を整え誤嚥を防ぐ「腹式呼吸」

食事中に焦ったり、慌てて食べたりすると、呼吸のリズムが乱れてむせやすくなります。
深くゆっくりとした腹式呼吸は、心身をリラックスさせ、誤嚥を防ぐのに役立ちます。

  1. 椅子に楽に座り、片手をお腹に当てます。
  2. 鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます。
  3. 口をすぼめて、吸う時よりも長い時間をかけて、ゆっくりと息を吐き切ります。お腹がへこむのを感じましょう。

食事の前に数回行うだけで、落ち着いて食事を始めることができます。

5. 遊び感覚でできる「吹き戻しトレーニング」

子どもの頃に遊んだ「吹き戻し(ピロピロ笛)」は、実は優れた嚥下トレーニングの道具になります。
息を吐き出す力(呼気力)を鍛えることは、万が一食べ物が気管に入りそうになった時に、咳で押し出す力を高め、誤嚥性肺炎の予防につながります。
最近では、トレーニング用に負荷が調整できる吹き戻しも市販されています。 お孫さんと一緒に楽しみながらできるのでおすすめです。

毎日の食事でできる!安全に美味しく食べるための食事法

トレーニングと合わせて、日々の食事を少し工夫するだけで、食べることはもっと安全で楽しくなります。

食べやすい食材・食べにくい食材リスト

食材の特性を知って、調理に活かしましょう。

食べやすい食品の例食べにくい食品の例
✅ プリン、ゼリー、茶碗蒸し、ヨーグルト❌ 水、お茶、汁物などサラサラした液体
✅ ポタージュ、おかゆ、ムース❌ ひき肉、刻み野菜などバラバラしやすいもの
✅ 卵豆腐、やわらかい魚、バナナ❌ パン、カステラ、芋類などパサパサするもの
✅ とろみをつけた料理全般❌ のり、わかめ、もなかなど口に貼り付くもの
❌ 酢の物、柑橘類など酸味が強いもの
❌ いか、たこ、ごぼうなど硬い・繊維質なもの

調理の工夫で飲み込みやすくする3つのポイント

食べにくい食材も、少しの工夫でぐっと食べやすくなります。

1. やわらかく煮込む

肉や野菜は、繊維を断つように切り、時間をかけて煮込むことでやわらかくなります。圧力鍋の活用もおすすめです。

2. 細かく刻むよりまとめる

ひき肉や刻んだ野菜は、口の中でバラバラになりやすく誤嚥の原因になります。片栗粉や卵、山芋などのつなぎを使ってあんかけにしたり、ハンバーグのようにまとめたりすると良いでしょう。

3. とろみをつける

水やお茶、汁物などサラサラした液体は、市販のとろみ調整食品を使うのが最も簡単で安全です。 片栗粉やコーンスターチでも代用できますが、温度によってとろみの状態が変わるので注意が必要です。

食事の姿勢と環境を見直そう

正しい姿勢で食べることは、誤嚥を防ぐための基本です。

  • 椅子に深く座り、足の裏を床にしっかりつける。
  • テーブルの高さを調整し、少し前かがみの姿勢になる。
  • あごを軽く引く。(あごが上がると気管が開きやすくなり危険です)

また、テレビを消して食事に集中できる環境を作ることも大切です。
「ながら食べ」は誤嚥のリスクを高めます。

口腔ケアが誤嚥性肺炎予防の鍵

ここが私たち歯科衛生士が最もお伝えしたいポイントです。
「誤嚥性肺炎」は、食べ物そのものが原因というより、食べ物と一緒に口の中の細菌が肺に入ることで起こる感染症です。

つまり、万が一誤嚥してしまっても、お口の中が清潔であれば、肺炎になるリスクを大幅に減らすことができるのです。
複数の研究で、歯科専門職による定期的な口腔ケアが、高齢者の肺炎発症率や肺炎による死亡率を低下させることが報告されています。

食前・食後の歯磨きやうがいで、お口の中の細菌をできるだけ減らしておくこと。
これが、命を守るための最も効果的な予防法の一つです。

不安な時は専門家へ。野田阪神歯科クリニックでできること

セルフケアで改善しない場合や、不安なことがある場合は、ぜひ専門家にご相談ください。
「飲み込みの相談は、何科に行けばいいの?」と思われるかもしれませんが、実は歯科クリニックも重要な相談窓口です。

歯科衛生士による専門的な口腔ケアとアドバイス

ご自身では取り切れない歯垢や歯石を専門的な器械で除去し、誤嚥性肺炎のリスクとなる細菌を徹底的に減らします。
また、お一人おひとりのお口の状態に合わせた歯ブラシの選び方や、効果的なセルフケア方法をアドバイスさせていただきます。

嚥下機能の簡易的なチェック

問診でお困りの症状を詳しくお伺いしたり、お口の中の筋肉の動きや乾燥状態、舌の状態などを診させていただくことで、嚥下機能低下のリスクを評価します。
例えば、「30秒間に何回唾液を飲み込めるか」といった簡単なテスト(反復唾液嚥下テスト)も一つの目安になります。

舌圧・咬合力の測定

当院では、専用の機器を用いて、舌が上あごを押す力(舌圧)、ぐっと噛みしめる力(咬合力)に関する数値を測定することが可能です。

測定した数値を平均値と比較することで、お口の機能が年齢に対して正常に働いているかを客観的に評価できます。
また、定期的に測定を続けることで、ご自身では気づきにくい機能の低下を早期に発見し、機能の維持・向上に向けた具体的なサポートへと繋げます。

必要に応じた専門医療機関への連携

より詳しい検査(嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査など)や専門的な治療が必要と判断した場合は、地域の耳鼻咽喉科やリハビリテーション科など、適切な専門医療機関へ責任を持ってご紹介いたします。
私たちは、地域医療の窓口としての役割も大切にしています。

野田阪神・海老江エリアの皆さまへ

私たち野田阪神歯科クリニックは、この地域に根ざし、皆さまの「食べる楽しみ」を生涯にわたって支えたいと心から願っています。
お口のことから始まる全身の健康づくりを、一緒にサポートさせてください。
どんな些細なことでも、お気軽にご相談いただけると嬉しいです。

よくある質問(FAQ)

Q: 嚥下トレーニングはどのくらい続ければ効果が出ますか?

A: すぐに劇的な変化があるわけではありませんが、毎日続けることが大切です。まずは毎食前に準備体操を行うなど、習慣にすることを目指しましょう。筋肉は何歳からでも鍛えることができますので、焦らず継続することが将来の健康につながります。

Q: 水やお茶でむせやすいのですが、水分補給はどうすれば良いですか?

A: サラサラした液体は流れが速くむせやすいので、市販のとろみ剤を使ったり、ゼリー状の水分補給補助食品を活用するのがおすすめです。一度にたくさん飲むのではなく、こまめに少しずつ飲むように心がけましょう。

Q: 家族の飲み込む力が心配です。何から始めれば良いですか?

A: まずは食事の様子をよく観察し、この記事で紹介したサインがないかチェックしてみてください。そして、食事の姿勢を整えたり、食べやすいように食事を工夫することから始めてみましょう。ご本人の不安に寄り添いながら、一緒にトレーニングに取り組むのも良いですね。心配なことがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

Q: 嚥下機能の低下は、歯が少ないことと関係ありますか?

A: はい、大いに関係があります。歯が少ないと食べ物をしっかり噛み砕けず、大きな塊のまま飲み込もうとして喉に詰まらせる原因になります。また、噛む動作自体がお口周りの筋肉を鍛えることにも繋がります。合わない入れ歯も同様の問題を引き起こすため、定期的な歯科検診が重要です。

Q: 誤嚥と誤嚥性肺炎の違いは何ですか?

A: 「誤嚥」とは、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまうこと自体を指します。一方、「誤嚥性肺炎」は、誤嚥した際に食べ物などと一緒に口の中の細菌が肺に入り、炎症を起こす病気のことです。誤嚥しても必ず肺炎になるわけではなく、日頃の口腔ケアで細菌を減らしておくことが予防の鍵となります。

まとめ

飲み込む力は、私たちが「食べる楽しみ」を生涯にわたって享受し、健康に過ごすための大切な土台です。

今回ご紹介したサインに気づいたら、ぜひ簡単なトレーニングや食事の工夫を今日から始めてみてください。
「毎日の小さなケアが、将来の大きな差になります」。

もし少しでも不安なことや、ご自身やご家族のことで気になることがあれば、一人で抱え込まず、いつでも私たち専門家にご相談くださいね。
野田阪神歯科クリニックは、皆さまのお口の健康から全身の健康まで、しっかりとサポートさせていただきます。